第十四章 「余興」 2
時を告げる鐘が正午を知らせた。
一度閉じられていた聖堂の扉が大きく左右に開かれ。オルガンの賛美歌に合わせて、
ヴェンシナにエスコートされたシャレルがゆっくりと入場してくる。
この、祭壇へ続く花嫁の道を、近衛騎士の正装で送って欲しいというのが、
シャレルからのたっての要望であった。
ヴェンシナは緊張気味であったが、彼にとっても感慨深い役目であるらしい。
祭壇の前で待つカリヴェルトの傍らに、血を分けた唯一人の姉を送り届けると、
それまでの生真面目な表情を一変させて、少し切なそうに優しく微笑した。
このヴェンシナの姿は村の娘たちの心を大いに騒がせた。
シャレルが長いヴェールを捌く手伝いをしていたラグジュリエは、
思わず見惚れながらやきもきとしたものである。
故郷に錦を飾ったヴェンシナのこともさることながら、
列席者の最大の関心の的はやはり主役のシャレルである。
シャレルは童顔で小柄だが、弟同様華やかに人目を惹く器量の良い娘だ。
カリヴェルトの期待に違わず素晴らしい花嫁になった。
ヴェンシナが用意した絹を使い、エルミルトで『姉』のエマが仕立てた花嫁衣裳は、
教会の妻にふさわしいよう上品に肌の露出は抑えられていたが、
適度に華美で、いつまでも少女のような瑞々しさを失わないシャレルの
魅力を存分に引き出していた。
王太子から贈られたヴェールは霞のように花嫁を取り巻いて長く裾を引き、
黄金のフィオフィニアの花冠は、
ふんわりと結い上げたシャレルの栗色の髪によく映えた。
花嫁が花束から金色の薔薇を一本引き抜き、
カリヴェルトの黒い僧衣の胸に挿すと、
愛の女神のなせる業なのか、それだけで花婿もぐんと華やいで見えた。
今日からは二人にとっての義父となる、エルフォンゾから心のこもった祝福を受け、
神々の御許でカリヴェルトとシャレルは永遠の愛を誓った。
死が二人を別つまで、共に生きることを――。
聖堂での厳粛な式は滞りなく進行した。花嫁花婿の退場と共に、
祝いの場はごく自然な流れで広場に設けられた宴の席へと移行した。